若くして渡米し、写真家として大成功。そして、2004年には『CASSHERN』で映画監督として鮮烈なデビューを飾った紀里谷和明。続く2009年発表の『GOEMON』以来、約6年ぶりとなる彼の新作『ラスト・ナイツ』が1114日(土)より公開される。

過去に度々チャンスがありながら、様々な理由で不運にも実現しなかったハリウッド進出。それがいよいよ実を結んだ今作には、モーガン・フリーマンやクライヴ・オーウェンをはじめ世界各国から様々なキャストが出演。そして、映像もこれまでのCGを駆使した作品とは違ったテイストに。新たに生まれ変わった紀里谷作品、そこには彼自身の変化と、変わらぬ思いが盛り込まれ、壮大かつ重厚な仕上がりとなっている。そんな今作に関して、そして彼の人生観について話を聞いてみた。

――今作は紀里谷さんにとってハリウッド第一弾作品。ハリウッドで作る魅力とは?

「まずは、見ていただく方の数が圧倒的に違うということですね。そこは非常に大きい。別にハリウッドに憧れを抱いているとか、ハリウッドで作ったら偉いとか、そういうことじゃないんですよ。予算やリソースも全然違う。ということは、表現する際のツールが増えるわけですよ。今まで12色しかなかった絵の具が120色になるような。役者やスタッフの選択肢も格段に増えるので、その環境はすごくありがたい話ですよね」

――作る過程に関しては特に変わりはない?

「変わらないです。別に日本で撮ろうが、ハリウッドで撮ろうが、みんな向かっている先、いいものを作りたいというのは同じなので。お客さんに喜んでもらいたいという気持ちは世界どこでも同じですね」

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――自身の作品をよりグローバルに展開できるというその一点だけ。

「僕のことは別にどうでもいいんですよ。僕自身、エゴの部分はもうだいぶ消化されているし。世の中は不条理の連続で、その中で本当はこういうことでしょっていうものがある。そして、そこにはハリウッドや日本という枠組みはないんです。ただ映画を作っているだけの話で」

――今回キャストも人種が様々で、舞台も現実だけど特定されていないのも、そのあたりに関係がありそうですね。

「僕は形のあるものは必要ないと思っていて、つまり最終的には人種も国も関係ないんです。それが言いたかった。重要なのは、あなたにとって大切なものは何か、そのためにどこまで戦いますか、何を差し出せますか、という話。場所を特定することも僕にとっては興味のないことで、だから作り込んでいる。普遍性だったり、分別されていないということが重要だと思いますね」

――今作における、『CASSHERN』や『GOEMON』との大きな違いは?

「より流れに身を任せることができたことかな。以前は全てをコントロールしようとしていたけど、その恐怖が減ったと思います」

――それは言い換えると寛容になったということ?

「寛容というと、また違う。そこにはあきらめが入っちゃうから。目指しているところが明確にあって、どんな状況でもそこに辿り着ける自信が付いてきているんです。以前はアクシデントがあるとあたふたしていたけど、それもなくなって。最終的には自然とゴールに辿り着けると思えるようになったのかもしれない」

――ゴールはわかっていて確実に辿り着ける、でもその道筋だけがわからないってことですね。

「思うに、みんなゴールには辿り着いているんですよ。ただ、恐怖のあまりそれが信じられない。ゴールが信じられないから全て自分でやっちゃうんですよね」

――ゴールに着いているのに?

「そう。ただ、矛盾してしまうんだけど、僕はゴールに着いても着かなくてもいいと思っているんです。なぜかと言うと、どちらにせよゴールには着いているわけだから、わからないだけで。いずれにせよ、そこまでの過程も手を抜いているわけじゃなく必死だし、たとえ辿り着かなかったからって自分の価値が変わることもないと思うし」

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――つまり、『CASSHERN』や『GOEMON』は頑張りすぎた?

「そうかもね。普通にしていてもゴールに着いていたんですよ。でも、当時は流れが来ていたからめちゃくちゃ頑張っちゃっていた。だから、今はもう少し流れを利用してもいいんじゃないかなって思います」

――物語や設定にもよると思いますが、今作は映像的にもこれまでとだいぶ世界観が違いますよね。

「違いますね。僕自身、そもそもCGが好きなわけじゃないんですよ。当時は、ゴールに辿り着くためにどうすればいいか考えた結果、それしかなかったってだけで。でも、今回は120色の絵の具が用意されているから必要なかったんです。それが本来やりたかったことだし、かといって以前のやり方に戻らないというわけでもない。違うステージでは、また違うことをやるかもしれないし。ただ、おそらく今がそういう時期なんじゃないかなって思う。もう決まっていたような気がするんですよね」

――それは運命論?

「というか、現実社会も僕の中では所詮夢であり、自分が作りあげていくものだと思うんです。それに対して何かを変えようとしているだけで、今回はそういうタームだったというか。それは、作品的なことではなく感覚的なものなんですけどね」

――時間とともに考えや感覚が変わった?

「昔は直球で言っていたことが、実は嘘だったっていうこともあるかもしれない。そのときは真実だったんですけどね。それは演技というか、わかっているつもりだったというか、実体は存在していなかった……というようなことなのかもしれないですね」

――そんな変化の末に行き着いた今作の見所を教えてもらえますか。

「やっぱり、何が大切なことなのかってことですよね。それをちょっとでも感じてもらえたら嬉しい。僕らは何かをお届けしようと思って作品を作っていて、それは例えば料理にしてもおいしいと思って作っているのと一緒。おいしいと思ってくれたら嬉しいし、口に合わなかったらごめんなさいって感じで。でも、食べた後にちょっとだけでも物の見方が違っていたらいいなとか、こういう料理があるんだって思ってもらえたり、昔食べたお母さんの料理を思い出したり。そういった感覚になってもらえたらいいですね」

――でも、決してノスタルジーにすがるわけではないですよね。

「そういうことじゃないけど、映画ってそういうものでもありますよね。全ての映画は、どこかで自分の過去の感覚にリンクしたところで、何かが作用するわけですし」

――紀里谷さんが最近ワクワクしたことは?

「どうなんだろうな……やっぱり、女の子とデートしているとワクワクすしますよね。あとは、友達と飲んでいるときとか。人間なんてそんなもんじゃないですか(笑)」

――ストレートですね。好きなことをしているとワクワクするわけですね。

「シンプルなものですよ。この前ハワイに行って海に入ったらワクワクしたし、その後ロスに行って脚本家と打ち合わせしていてもワクワクしたし」

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――日々ワクワクしていると。

「言ってしまえば、情報から離れたときにワクワクしていますね。だから、SNSやネット、テレビを見ていてもワクワクしないし、弁護士と話していてもワクワクしない(笑)。自然でも人間でもいいんだけど、何かと繋がったときにワクワクしますよね。それは僕だけじゃなくて、みんなそうだと思うのですが」

――となると、役者やスタッフと繋がる映画作りは相当ワクワクするものなんですね。

「そう。でも、最後は苦しくて死にそうになりますけどね(笑)。『ラスト・ナイツ』はスタッフ含め、総勢300人ぐらいになったけど、彼らと繋がって何かをするというのは幸せですよね。それはサッカーとかも同じ。みんな繋がっている幸せ。プレイヤーはもちろん、見ている方も自分のこと忘れて、それこそ明日家賃を払うことさえ忘れて騒いでいるから楽しいんであって、そこにはエゴがない、愛しかないんですよね」

――上映後にはお客さんとも繋がれるわけで。だからこそ映画を作り続けるわけですね。

「みんなやめられないのはそこ。だって、本当は損な商売だと思いますよ、映画監督って。何年もかけて大変な思いをして作り上げたのに、2時間後にはボロクソ言われることもあるわけで。なぜそんなことをするのか、僕自身時々立ち止まって考えることあります。でも、やっぱりやめられないんですよね」

PROFILE

紀里谷和明

1968420日生まれ。15歳の時に単身渡米単身渡米。ニューヨーク在住時の1990年代半ばに写真家として活動を開始。その後、日本国内外で数多くのミュージック・ビデオを制作し、才気あふれる映像クリエイターとして脚光を浴びる一方、CM、広告、雑誌のアートディレクションも手がけるなど幅広い分野で活躍。2004年、TVアニメ「新造人間キャシャーン」を斬新なヴィジュアル感覚で実写映画化したSFアクション『CASSHERN』で映画監督デビューを果たす。2009年に、監督2作目となる『GOEMON』を発表。2015年に、三代目J Soul BrothersUnfair World」のPVを手掛けた。

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『ラスト・ナイツ』

http://lastknights.jp/

1114日(土)よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー

出演:クライヴ・オーウェン モーガン・フリーマン

伊原剛志 他

監督:紀里谷和明

配給:KIRIYA PICTURES/ギャガ GAGA

©2015 Luka Productions